※BGMと共にお楽しみください。
桂の姿が見えた途端、歳三は座っていた椅子から立ち上がって彼を睨みつけた。
「高杉、これは一体どういうことだ?」
「落ち着けよ、桂。今日お前を呼んだのは、これから大事な話をするためだとさっき言っただろう?」
晋作はそう言うと桂の肩を軽く叩き、彼に座るように目配せした。
「それで、大事な話とは何だ?」
「次に“時空の扉”が開くのは二週間後の大晦日だと言う事は、確かだな?」
「ああ。それがどうかしたのか?」
「実はその日に、俺は大きな花火を打ち上げようと思うんだ。」
「大きな花火だと?お前、まさか江戸で英国公使館を焼き討ちしたような事と同じ事をしようとしているのか?」
「ご名答。」
晋作はグラスに注がれた水を一気に飲み干すと、そう言って桂に向かって笑った。
「てめぇ、誰かと思ったら大樹公が御上洛した際に野次を飛ばした奴だな?何処かで会ったことがあると思ったぜ。」
歳三はそう言うと、晋作を睨んだ。
「野次を飛ばすも何も、俺は当たり前のことを言っただけさ。」
「この野郎・・」
歳三が拳を固めて晋作を殴りつけようとした時、総司が彼の手を掴んで制した。
「土方さん、暴力はいけません。」
「だが総司、こいつは国賊だぞ!」
「おいおい、国賊とは聞き捨てならねぇな。俺達はこの国の為に俺達のやり方で幕府の腰抜け外交に対して抗議しているだけの事だ。」
「抗議、ねぇ・・京で要人を闇討ちしてその首を三条河原に晒したり、横浜で異人を斬り殺したりするのがお前達のやり方か?そんな事だから、禁門の変でお前達の仲間は天王山で無様な死に方をしたんだったな。」
歳三の挑発に晋作は乗らなかったが、彼は気分を害したようで晋作の眉間には深い皺が寄っていた。
「まぁ、その話はおいといて、まずは飯にするか。ここの飯屋は自分で飯を取りに行く形式なんだとさ。」
晋作はさっと椅子から立ち上がると、料理が並んでいるテーブルの方へと向かった。
「千君、貴方はあの人と一体どういう関係なんですか?」
「話せば長くなりますが、高杉さんは根っからの悪人ではないと思います。ちょっと傲慢で無鉄砲なところがありますけど。」
「あいつは昔からそうだ。松下村塾に居た頃、あいつにどれだけ迷惑を掛けられたか・・」
桂はそう言って溜息を吐くと、グラスの中の水を一口飲んだ。
「俺ぁ、あいつみたいな奴は大嫌いだ。桂、お前ぇもな。」
「そうかい、それは残念だね。」
「総司、千、俺達も飯を取りに行くか。」
歳三達が晋作と入れ違いに料理を取りに行くと、そこには色とりどりの料理が並んでいた。
「何だかどれを食べたらいいのか、迷っちゃいますね。」
「ああ。総司、腹の子の為にしっかり食べろよ?」
「はい。」
「腹の子って・・沖田さん、まさか妊娠していらっしゃるんですか?」
「はい。一度目はあんな事があってもう妊娠はできないと思ったんですけれど、神様がわたしの為に贈り物を授けてくださったのですね、きっと。」
「沖田さん、お腹を触ってもいいですか?」
「いいですよ。」
千がそっと総司の下腹に触れると、そこには小さな命が宿っている温かさを感じた。
「元気な赤ちゃんを産んでくださいね。」
「有難う、千君。さてと、そろそろ戻りましょうか?」
「ええ。」
総司達が料理を載せた皿を持って自分達の席へと戻ろうとした時、突然グラスが割れる甲高い音が店内に響いた。
「ふざけるな!」
桂は怒りで頬を赤く染めながら旧友に向かってそう怒鳴ると、彼の顔を拳で殴った。
「落ち着けよ、桂。話はまだ終わってねぇぞ。」
「お前とこれ以上話す事などない!」
この作品の目次は
コチラです。
にほんブログ村