「おう、来たかえ!」
『亀山社中』と書かれた門の前に真紀とあいりが立つと、中から浅黒い肌をした男が二人を出迎えた。
「坂本殿、お久しぶりです。」
「お~、お前、真紀じゃなかか?暫く見ん間に、大きゅうなったのう!」
龍馬は骨張った大きな手で真紀の頭を乱暴に撫でた。
「お前の隣に居る女子は誰じゃ?」
「初めまして、あいりと申します。」
「ほう、可愛いのう。それよりも、桂さんから何かを預かってきたがか?」
「はい。ここでは人目がありますので・・」
「わかった。中で茶でも飲んで話そうかのう。」
三人は、ゆっくりと建物の中へと入っていった。
「長州が馬関で列強の艦隊と戦をしたがか・・そんで、勝ったかが?」
「いいえ。圧倒的な軍事力で、我が藩は大敗を喫しました。」
長州藩は、馬関海峡に於いてイギリス・フランス・オランダ・アメリカの4ヶ国に砲撃を受け、惨敗した。
その原因は、前年長州藩がフランス艦を馬関で砲撃したことにあった。
「今回のことで、桂さんは尊王攘夷から開国勤皇へと藩は大きく考え方を変えるべきだとおっしゃっておりました。そこで、坂本殿のお考えをお聞きしたいと・・」
「わしゃぁ、このままでいっては日本はいかんと思うぜよ。」
「では、どうすればよいと?」
「メリケンちゅー国は、日本のように血筋で選ばれた将軍が国を治めんと、国民一人一人が選んだ大統領が治めるがじゃ。身分も何も関係ない者が国を動かす。面白い事だとは思わんかえ?」
「そうですね・・ですがそれを日本でしようとするとなると、至難の業でしょう。徳川家が容易に将軍職を手放すかどうか・・」
「なぁ真紀、外国人らにはこん国が面妖なもんに見えて仕方がないと言われたがじゃ。それぞれの国に王様がおって、西と東にも王様がおる。国中がバラバラな動きをしとる。」
「確かに、エゲレスでは女王が一国を治めておりますし、オロシヤでもあの広大な国を皇帝が一人で治めています。日本でもそれが出来る筈・・」
「そうぜよ。それがわしの目指している未来の日本の在り方じゃ。共和国ちゅーもんを作りたいんじゃ。」
「共和国?」
「これからこの国の王は、血筋でなくて国民一人一人が選んだ者がなるんじゃ。」
「それはいいですね。しかし、それが実現するまでどれほど時間がかかるか・・」
真紀はそう言って溜息を吐くと、茶で乾いた喉を潤した。
「すいまへん、ちょっと坂本はんに聞いてもよろしいどすやろうか?」
先程まで真紀と龍馬の会話を聞いていたあいりが、そう言って龍馬を見た。
「何か言いたい事があるがかえ?」
「坂本様が目指す新しい国には、キリシタンが居てもいいんどすやろか?」
「おんし、確かキリシタンやったのう。」
「へぇ。うちは悪い事を何もしてへんのに、どうしてあないな目に遭わされるんかわからへんのどす。」
「わしは、キリシタンもそうでない者も、みな同じ人間じゃ思うちょる。」
龍馬の言葉に、あいりはパッと顔を輝かせた。
「そうどすか。ほんなら、うちも坂本はんの新しい国づくりの手伝いをしてもよろしおすか?」
「ありがたいぜよ、これから宜しゅう頼む!」
龍馬は屈託のない笑みを浮かべて、あいりに骨張った手を差し出した。
「あの、これは?」
「シェイクハンド言うて、西洋の挨拶じゃ。」
「ほな、宜しゅうお頼申します。」
あいりはにっこりと龍馬に微笑んだ。
「ねぇ、土方さん達江戸から戻って来るのは、今日だっけ?」
「ああ。何でも、向こうで伊東甲子太郎なる人物が入隊をしたらしい。」
「ふぅん、どんな人なんだろうねぇ、その人。」
総司がチラリと屯所の門の方を見ると、丁度近藤達がやって来るところだった。
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