「お嬢様、王妃様からお手紙が届いております。」
「ありがとう、アウグスト。」
アウグストから封筒を受け取ったクリスティーネは、自室に入るとその封筒の封をペーパーナイフで切った。
封筒を逆さにすると、中からルビーの指輪が出て来た。
(これは、王妃様の・・)
指輪とともに同封された手紙を読んで、クリスティーネは胸が熱くなるのを感じた。
“この指輪を生涯の友であるあなたに授けます。セレステ”
(王妃様、あなたの死の真相を必ず突き止めてみせます!)
クリスティーネはそう胸に誓うと、王妃の指輪を右手の薬指に嵌めた。
「お嬢様、アンリ様からお手紙が届いております。」
「ありがとう。」
その日の夜、クリスティーネはフェリペに招待されて王妃の追悼音楽会に出席した。
そこで音楽家達は生前王妃が好きだった曲を演奏し、貴族達は王妃の思い出話に花を咲かせていた。
「本日は、お招きいただきありがとうございます、陛下。」
「クリスティーネ、そなたも来てくれたのか。礼を言うぞ。」
フェリペがそう言ってクリスティーネに微笑もうとした時、彼女の右手の薬指に妻の形見の指輪が嵌められているのを見た。
「その指輪は?」
「これは・・王妃様から・・」
「セレステが、この指輪をそなたに?」
フェリペが怒気を孕ませた声でクリスティーネにそう尋ねると、彼女はあの手紙が偽物だったことに気づいた。
「ええ、昼に王妃様からお手紙が届いて・・」
「そなたの勘違いではないのか、クリスティーネ?セレステはこの指輪を大切にしていた。その指輪を、そなたに授ける筈がない!」
「陛下・・」
「何をしておる、早くこの盗人を捕えよ!」
「陛下、誤解です!わたくしは何もしておりません!」
フェリペの怒りを買ったクリスティーネは、近衛兵によって近衛隊兵舎の地下牢へと入れられた。
「お願いします、わたしは無実です!」
「黙れ!」
近衛兵の一人がそう言って銃剣でクリスティーネを殴ろうとした時、彼の腕をフィリスが掴んだ。
「やめろ。」
「こいつは王妃様の指輪を盗んだ盗人だ!」
「彼女の話をちゃんと聞いてやれ。彼女に暴力を振るう事は、俺が許さないからな。」
フィリスに睨まれた近衛兵は、舌打ちすると地下牢から出て行った。
「クリスティーネ、俺がついているから大丈夫だ。」
「フィリス、わたしは何も知らないのよ・・本当よ、信じて!」
「俺はお前の言葉を信じているよ。だから、今は何も考えずにゆっくりここで休むんだ、いいね?」
フィリスはそう言うと、クリスティーネに優しく微笑んだ。
地下牢を後にしたフィリスは、フェリペの執務室へと向かった。
「陛下、クリスティーネは決して王妃様の指輪を盗んでなどおりません。」
「それはどうだろうな?」
「陛下も、クリスティーネの人柄はご存知の筈でしょう?彼女は、誰かに嵌められて盗人の烙印を捺されたのです。」
「その“誰か”とは?」
「陛下の弟君を手にかけた者です。」
「アンジェリーナが?それはまことか?」
「王妃様と王太后様、そして王太后様の侍医であるステファノ様を殺害したのも、アンジェリーナ様だとわたしはにらんでおります。陛下、どうかわたしに時間を下さい。」
「・・わかった。」
フェリペはそう言うと、手にしていたグラスの中に注がれたブランデーを一気に飲み干した。
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