「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。
『もしもし・・』
「俺だ。」
『どうしたの、こんな夜遅くに?』
「実は・・」
『何か、あったのね?』
雪乃は勘が鋭いようで、隼人の声を聞いた途端、何か良からぬ事が彼の身に怒ったのだろうと隼人に尋ねて来た。
「貴子と今日、不妊治療専門クリニックに行って来て診て貰ったんだが・・あいつは自然妊娠が難しいと医者から言われてな・・」
『それで、隼弥をあなた達の養子に迎えようという訳ね?』
「まぁ、そんなところだ。」
『わたしは、あの子と静かに暮らしたいだけなの。だから、この話は聞かなかった事にするわ。』
お休みなさい、と雪乃は一方的にそう言うと電話を切った。
「ねぇ、彼女とは話したんでしょう?」
「断られたよ。貴子、俺は・・」
「あなた、昔の女が駄目なら今すぐ愛人を作って。わたしは子供が欲しいのよ。」
「貴子・・」
「あなたに拒否権はないのよ。」
東京で隼人が陰鬱な気分で仕事をしている頃、歳三達は熱海で仕事に精を出していた。
「あ~、疲れた。」
「総司、そんな腑抜けた顔をするんじゃねぇ!」
「え~!」
「それにしても暑いな。もう、今日はこれ位にしておくか。」
「じゃぁ僕は、プールにでも行こうかな。はじめ君はどうするの?」
「俺は少し立ち寄りたい所がある。」
「ふぅん、そうなの。じゃぁ、僕も一緒に行こうかなぁ。」
「好きにしろ。」
「二人共、暗くなる前にホテルに戻って来るんだぞ!」
「わかりましたよ~!」
総司は一と共にホテルから出ると、熱海の商店街の中にある一軒の和菓子屋へと向かった。
「いらっしゃいませ。」
「はじめ君、君がこんな所に来るなんて珍しいね。」
「ここは、俺の実家の系列店だ。」
「え?」
「“東雲”という店を知っているだろう?」
「何度かインスタでバズっている和菓子屋さんだよね?それがどうかしたの?」
「実は、俺はそこの経営者―社長の一人息子なのだ。」
「え~!」
「声が大きいぞ、総司。」
「本当なの、それ!?」
「あぁ。詳しい事は、茶でも飲みながら話そう。」
「わかったよ。」
店の奥にはイートインスペースがあり、平日だからなのか客は余り居なかった。
「ここの店は、あんみつが美味いぞ。」
「じゃぁ、フルーツあんみつにしようかな!」
総司はフルーツあんみつを、一は抹茶あんみつをそれぞれ注文した。
「ん~、和菓子を偶に食べるのもいいよねぇ。」
「そうか。俺は子供の頃から和菓子ばかり食べていた。初めてケーキを食べたのは、公民館で開かれたクリスマスパーティーで振る舞われたショートケーキだった。その時俺はこの世界にこんなに美味い物があるのだと、心の底から感動した・・」
「へぇ、それは良かったね。それで、何で和菓子屋の君はパティシエになったの?」
「実は、中学生の時に土方さんを取材したテレビ番組を観て、感銘を受けたのだ。」
「そうなの。でもさ、ご両親には反対されなかったの?」
「猛反対された。だから、両親とは縁を切った。」
「思い切りがすごいね、君。」
「俺はいつか、和菓子と洋菓子、それぞれの良さを出したスイーツを作り出したいと思っている。」
「応援するよ、君の夢。」
「ありがとう。ねぇ土方さんの何処に憧れたの?」
「いつも仕事に対して真剣に向き合っている事だ。」
「まぁ、そうかもね。まだ僕は土方さんには敵わないなぁ、技術も何もかも。」
「総司は、どうしてパティシエになろうと思ったんだ?」
「う~ん、僕は昔、児童養護施設に居たんだよね。子供の頃、クリスマス会で毎年クリスマスに美味しいケーキを食べてさ、自分も僕と同じような境遇の子供達に美味しいケーキを作ってあげたいなぁって思ってね。」
「そうか。」
「そろそろ戻らないと、土方さんに怒られちゃうから、出ようか?」
「あぁ。」
店から出た二人がホテルから戻ろうとした時、一台の車が店の前に停まった。
「久しぶりだな、一。」
車から降りて来たスーツ姿の男は、そう言うと一を睨んだ。
「お久しぶりです、父上。」
「仕事は順調にやっているか?」
「はい。」
「そうか。身体を大事にしろよ。」
「はい・・」
ほんの少しの、短い会話。
ただそれだけだったが、それでも長い間離れていた父子にとっては充分な会話だった。
「只今戻りました。」
「おう、お帰り。みんな揃ったところだから、少し話したい事がある。」
「何ですか、話したい事って?」
「実はさっき、大鳥さんがここへ来てな。うちの店の看板商品を大鳥さんの会社とコラボレーションしないかという話があってな。今、その話に乗ろうかどうか迷っている。」
「乗ればいいじゃないですか?いい機会ですし。」
「でも、こういう事は慎重に考えないといけませんよね。」
「あぁ。」
「大鳥さんの会社は、業界では最大手だし、うちの店の宣伝になるんじゃないかな。」
「店が人気になるのはいいが、その所為で店の経営が成り立たなくなるのは本末転倒だ。だから、色々とこの件は考えたいから数日時間をくれと先方には伝えて来た。」
「そうですか。まぁ、いい宣伝にはなると思いますよ。」
「斎藤、お前はどう思う?」
「俺は、どのような結果であれ、土方さんの考えを尊重します。」
三泊四日の仕事を終え、歳三達は熱海を去った。
「また、来てね。今度は、お客様として。」
「あぁ、わかったよ。またな。」
「どうしたの、はじめ君、少し顔色が悪そうだけれど・・」
「何でもない。」
「ここ数日、お前らには無理をさせちまったな。だから、一週間の休みをやる。」
「やったぁ!」
「まぁ、これから忙しくなるから、その前にしっかり休んでおけ。千鶴、これは少ないが臨時のバイト代だ。」
「そんな・・」
「受け取ったら?君をこの店の戦力として認めた証だよ。」
「ありがとうございます。」
歳三の店でのアルバイトを休んでいる間、千鶴は会社へ戻り、仕事に精を出した。
「雪村、これ明日までに纏めておいてくれ。」
「はい。」
「雪村先輩、俺も手伝います!」
「ありがとう。」
千鶴がデータ作成をしていると、外から大きな音がした。
(何?)
作業をする手を止め、千鶴が懐中電灯を手にオフィスから出ると、そこには誰も居なかった。
(今、誰かに見られていたような気がするけれど・・気の所為ね。)
千鶴がそんな事を思いながらオフィスの中へと戻ろうとした時、背後で人の気配がした。
「あんたさえ・・あんたさえ居なければ!」
髪を振り乱し、目を血走らせた琴子が、ナイフを千鶴に向けて立っていた。
「お前ぇ、何してんだ!」
「離せ、離せよ!」
「相馬、警察を呼べ!」
「もう呼びました!」
「部長・・」
「怪我は無いか?」
「はい。」
「仕事が終わったら、お前を家まで送る。」
「ありがとうございます。」
千鶴が隼人と共に会社の地下駐車場へと向かうと、彼の車の前に貴子が立っていた。
「あらあなた、その人は?」
「こいつは俺の部下だ。それよりも、お前は一体、何でこんな所に居るんだ?」
「あなたの部下に、ひとつお願いがあって来たのよ。」
貴子はそう言うと、千鶴を見た。
「ねぇあなた、夫の愛人になってくれないかしら?」
「てめぇ、正気か!?」
「あの女があてにならないのなら、この女にあなたの愛人になって貰うしかないでしょう!」
隼人は貴子に背を向けると、千鶴と共に車へと乗り込んだ。
「あいつが言った事は、忘れてくれ。」
「はい、わかりました。」
数日後、歳三は大鳥の会社へと向かった。
「土方君、待っていたよ。」
「大鳥さん、例の件だが・・よろしく頼む。」
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